弥勒の掌

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大昔「殺戮にいたる病」で衝撃を受けて以来の我孫子武丸の本です。
以下、ネタバレ含みます。

ある日突然妻が失踪した教師、汚職の疑いをかけられた上に妻を殺された刑事、2人は怪しいと目を付けた新興宗教を調べるうちに知り合い、フリーの記者とともに真実に迫って行く、みたいな内容です。

途中から、「どこかに叙述トリック使ってるな」感はあったので、ソコは特に何とも思いませんでしたが、むしろ悪玉だと思っていた(いや、結局はそうなんですけど)、滅多に姿を現さないと言っていた教祖様が途中から堂々現れて、ベラベラ喋りまくった上に謎解きまで全て語ってくれるという展開に笑ってしまいました。やっぱり金儲けには「口が達者」だという事が大事なんですね(いや、そんな話では無くて)。

オチがブラックなんですが、そこもあまり好きじゃないですね。「ブラック」というと、単に「救われないな」という後味の悪さだけではなく、「え?!」という意外性やら登場人物の「何でそうなるの?!」という理解不能な思考から導き出されるモンだと思うのですが、本書の場合「あー。そりゃ、そうなるわな。」的な方向に行ってしまうからです。だって、新興宗教は本当にビジネスでやってるし、教師は本当に教え子と不倫してたし、刑事は本当に汚職してるし、どこを探しても意外性がありません(^_^;)。

結局はどの登場人物にも感情移入できないまま、ビックリする程のオチも無いまま、「何か、期待してた方向と違うなぁ。」みたいな肩透かしで終わらされる感じです。読者の期待(予想?)を裏切る事には成功していると思いますが、言ってみれば「それだけ」の内容かなと思いました。

「殺戮~」も「最後にトリック一発モノ」なんですが、その「一発」だけに全神経を研ぎ澄ましている鋭利で芸術的な切れ味なのに対して、こちらはナタで「おりゃ!おりゃ!おりゃ!」って力ずくで切ってるだけのようで、美しさに欠けると言うか何と言うか。。やっぱり、物語を創造するのって難しいですね。

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このページは、skoyamaが2010年5月 3日 22:17に書いたブログ記事です。

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